NPO法人(特定非営利活動法人) 日本放牧養豚研究会
理事長 山下哲生
2002年7月25日設立
日本における放牧養豚の展開とその可能性
放牧養豚の始まり
放牧養豚は、本格的に行われるようになったのは、1950年代のイギリスからである。
その目的は、どんどん集約化し、施設に莫大な費用と糞尿処理が必要な近代養豚に対し
むしろ、ふんだんにある、耕地、牧草地を養豚に利用できないかという数人のパイオニア
の試みから、次第にその技術 飼養方法に様々な改良が加えられた。
なによりも、イギリスにおける放牧養豚は、「繁殖豚から離乳子豚」までの技術として普及してきた。
それは、牧草地、あるいは、休耕地での放牧が、そのまま、牛、羊の放牧と同じイメージで、まず、やってみようという動機を与えたこと。また繁殖に供する雌に関してはまず、体つくりで十分な運動が必要との基本認識があった。
また、早くから、繁殖経営と肥育経営は分かれていて、肥育経営ではまず飼料要求率が重視されこれが大幅に落ちる放牧による肥育経営は敬遠されたことが、挙げられる。
1980年代後半から90年代に一気に開花したイギリスの放牧養豚
イギリスの放牧養豚は、1980年代後半から養豚の最新技術を取り入れシステム化をなしとげ、急速に普及した。システム化とは、養豚の基本に忠実とのことである。
システム化の内容は、オールイン・オールアウト、群管理によるバッチシステム(グループで繁殖豚を管理、集中種付け、集中分娩を行う)、人工授精、放牧用の育種、各種機材の開発である。そして、なによりも、基本となったのは、「豚の事は、豚に聞け」で、豚の
自然条件下での行動が解明され、そのもとで、野外でも十分に成績が出せる、いや、舎飼い以上の成績が、子豚生産において出せることが明確になったからである。
現在でも、イギリスでは、子豚生産の30%は、野外放牧から出てきており、この動向は
ヨ−ロッパの養豚に大きな影響を与えつづけ、動物の福祉を考える運動や、ゴーデックス委員会による有機畜産の基準作りの基礎となっている。
イギリスで発達した放牧養豚
繁殖豚の野外放牧
日本では、種豚候補の足腰を鍛えるため野外放牧であったが、イギリスで、開発された繁殖の全期間を野外で飼養し、分娩、離乳もそこで行う放牧養豚は、日本では実施の報告は、1998年に徳島で、著者が行った以外は、実施例はほとんど聞いていない。
その基本技術のポイントを押さえると、
1.野外放牧に向く品種の選択と選抜
野外放牧は、通常の豚舎のように特に温度に対するコントロールができない。
したがって、短期間の肥育ならともかく、年間を通じ野外で生活するには、強健性とともに、気候変動に対して強い抵抗力を持つような、品種であることが要求される。
一般的には、脂肪が厚い種豚の方が、寒暖の差に強く、また、有色(白豚でなく、
デュロック、バークのように色がはっきりしているもの。)の血液が入ると特に暑さに対する抵抗力も出てくる。
その結果、最初に選抜されたのは、ブリティシュ サドルバック という、ハンプシャーに似た黒に白の縦シマの入った豚であつた。
その後、野外放牧に向く、種豚の開発が進み、ランドレースを母豚にし、デュロックを止め雄として造った LDの豚を基礎母豚群として これに、やはり強健性に富む
大ヨークの雄豚をかけた、3元静止交配が、現在では主流となっている。
2.耕地、牧草地での移動
イギリスでは、農業経営は、土地当たりの投資がその収益に対し、いかに見合うかを判断することが根幹となっている。
放牧養豚も、多くの養豚家は土地を借りて経営を行っている。そして一度使用した土地は連続使用しないことが基本で1年ごとに、放牧地を移動、移動した後は、養豚家に土地を貸していた農家が1年目は、ジヤガイモ 2年目は、小麦 3年目は牧草そして、また豚に貸すという、輪作体系に基づいた、土地利用の区割りが出来ている。柵も簡単に敷設できる電牧柵が普及、これにつかうバッテリーの充電には、太陽光を利用したソーラーシステムが多く使われている。
野外で、豚が触れたことの無い土地を次々に移動することができ、グループ別の編成も簡単に柵の敷設でできる電牧柵の設置で行えるので畜産経営の基本であるオールイン オールアウトが空間的に行える。かつ同一の土地での連続飼養は無いので、豚由来の各種感染菌による発病はほとんど考えなくても良い。
3.人工授精と協同授乳システム
野外放牧での人工授精の採用は、野外での多頭管理と群管理を一挙にすすめた。
これまでは、かなりの数の雄を、種付け用に確保しなければならなかった。
それが人工授精で代替できるようになり、集中分娩と集中種付けが出来るようになった。分娩では、分娩後1週間すぎれば、母豚は、自分の生んだ子豚以外の子でも雌豚同士協同で授乳を含め面倒をみることが、行動の研究からわかってきた。
これを生かし、集中種付けした母豚を同一敷地内で個々のバンガロータイプの小屋で生ませた後、1週たってから柵を取り払い子豚が母豚群間で自由に行き来させる管理方法をとっている。
これは、子豚の免疫レベルを整えることと、離乳後の群編成に際してのストレスを大幅に緩和することに役立っている。
4.排水の良い土地の選択と施設
放牧養豚で重要なのは雨と土質で、砂地が一番放牧に向く 粘土質で排水が悪いと、放牧地はぬかるみ環境は悪化する、また小石が多い地質も蹄を傷つけやすいので向かない。
また、平坦地や窪地よりも緩やかな傾斜地が向く
放牧といっても、豚は、寒暖の変化を嫌い自分で寝場所を造り確保しようとする習性があるから寝場所としての雨風を防ぐ簡易小屋を寝場所を設ける必要がある。
そして、野外の管理で一番大切なことは、この小屋の中にいつも、十分な量のワラを供給しておくことである。ワラは、温かさを供給する布団の役目をすると同時に、食料補助ともなる。また、湿気から豚を守る。
また、寒い時期の風は、小屋の入り口から吹き込まないように、小屋は一般に移動が自由にできるよう稼動、組み立て式としている。
夏の暑い時期には、直射日光を避けるための日陰や水浴び用の簡易槽なども準備される。
離乳子豚は、寝場所とほぼ同じ面積の野外放牧場がセットになった小屋(これをハッチという。)に収容される。
もちろん、寝場所にはワラが多給されハッチ自体も断熱されているので、高温を好む子豚にとり問題はない。また、運動場も囲われていて狭いため運動量もさほど多くないので、飼料要求率には大きな影響はない。
野外でも分娩は問題なし!
放牧養豚の事例
大北農協
日本での放牧養豚は、種豚育成の際その足腰をきたえる目的で始まった。
しかし、意識して放牧を養豚における飼養形態の一つとして、意識的に行われるようになったのは、最近である。
日本では、まず、肥育豚の付加価値を上げる目的で、農協、消費者団体が、豚の肥育期を野外で飼うことで、そこにストーリー性(話題性)を作り消費者にアピールすることを狙ったものであった。
そのうち代表的なのは、長野の大北農協が平成元年よりはじめた、中山間地域農村対策事業の取り組みの一環としてはじめた「信州野豚」生産事業である。これは、30kg程度の子豚を放牧地に放し、115kg位まで5ヶ月ほど野外で育て、販売するという枠組みであった。放牧地の管理は、傘下の農家に任せ平成7年には13農家が参加している、冬は積雪があるため放牧地は閉鎖する年1度の放牧である。
放牧地の管理にあたっては、
@
梅雨期及び肥育後期には土地がぬかるみにならないように心がける
A
糞尿等が河川に流れ込まない場所の選定
B
夏の防暑対策のための木陰の必要(背丈の高い草で覆う)
C
給水には、十分に注意を払い、十分な水源の確保
D
休牧期間には、石灰を撒き 牧草も散布するなどして土壌回復につとめる。
販売面では、
@
野豚のオーナー制度
A
特産品販売所での販売
B
生協、スーパーへの、特産品としての出荷
消費者の評価は 「肉色、しまり、きめ」がいずれも良好で豚特有の臭みも無く脂がさっぱりしているとの評判をえている。
平成6年度の野豚飼育成績は別表の通り、年間での生産数は、1500頭程度
農事組合法人 富士農場サービスの静岡での放牧養豚事業
(農)富士農場サービスは、養豚関係者の間で人工授精普及のパイオニアとして名高い。
平成9年より富士山麓の標高700mの朝霧高原で独自に育種改良した肉豚を放牧し、
「朝霧高原放牧豚」の名前で年間700頭ほどを出荷するようになっている。
放牧は、システム化されており
@
放牧に適した育種を行い、LYB(ランドレースX中ヨークXバーク)、Y(中ヨーク)B(バーク)など
中型種で、脂は乗りやすいが、強健で環境変化に強いものを選抜
A
放牧豚1頭当たり20坪(66u)を基準に牧区を設定
B
全部で10牧区1牧区平均30頭飼養し、3ヶ月は休牧させ、石灰散布、牧草撒きを
行い、草が十分に生えてから放牧する。
C
餌には、農薬使用を極力抑えかつ遺伝子組み換えの穀物を使用していない飼料を、専用に配合給与する。
これらの、基準でシステム化した結果、放牧での事故率は、2%、肉質は、厚脂気味の豚を選抜し放牧した結果、適度の脂肪の厚みと、味のある赤肉部分が生み出され、「放牧豚」は、ひっぱりだこで、慢性的に品不足 かつ 高値で取引されている。
放牧による運動の結果、出荷日令は約1月要求率は、通常は2.7位であるが、3になる。
それでも、糞尿処理、施設費、労力面を考えれば、放牧は採算に合う。
なによりも、「放牧豚には生産者はもとより消費者のさらなる夢が伴う。食材への限りない願望を求めるからである。そのためには夢の食材を提供するだけの放牧体系が必要となる」
(富士農場サービス代表 桑原康氏)との考えである。これは、WTOの国際基準を作っているゴーデックス委員会の有機畜産の認証基準に適合するものを作ろうという世界を見すえた事業戦略がある。
離乳子豚の放牧養豚
イギリスでは、2000年代に入ると豚の衛生状態が悪化し特に離乳子豚の事故率が急増するようになった。この事態に、大手の生産者を中心に、感染菌からの隔離、オールイン オールアウト の実践を目的に野外放牧で生後24日令以上の子豚を飼養し成績を上げる経営が増えた。
日本でも、この時期から呼吸器系の病気で事故が増加する傾向が生まれてきた。
この衛生状態の悪化に対しては、投薬、消毒などの手法で対応するよりも、環境面で疾病を抑えられないかという点から離乳子豚の放牧が2001年ごろから九州を中心に始まった。特に千葉では、数千頭規模での離乳子豚の放牧が行われている。
また、放牧地の耕種農家と連携しての耕地としての利用も進んできている。
その方法は
@
通常の倍の飼養面積を確保すること(1頭当たり0.6u)
A
移動式のハッチと同じく簡単に設置、解体できる運動場用のフェンスを設けること
B
移動式のハッチは、十分に断熱し、内部には、ワラ、青草などの十分な敷き料をしいておくこと
C
同一ハッチ内の離乳子豚のうまれてからの日令差は、10日以内にする。
D
十分な給水 十分な口数を持った餌箱、および 新鮮な土、青草、に触れられるようにする。
E
ハッチ設置場所では1回限りの飼養とし、最長でも2ヶ月を越えないこと
これらの条件を満たせば、特に外気温度が高い5月〜9月までは、舎飼以上の成績が出るほか、特に病気の罹り始めの子豚に対する治癒効果は眼を見張るものがある。
その理由としては、
@
感染菌の無い清浄な状態での飼養ができること
A
換気が十分できること
B
土、からミネラル分 青草、敷き料からの繊維分を 摂取できるので、胃腸の働きが活発になり、下痢などの症状が緩和され 健康が回復すること。
C
運動ができるので、食欲が湧き、通常の舎飼の1.5倍の餌を食べこれで、より強健になること
D
太陽の直射日光を浴びることで、その殺菌作用により、スス病などの皮膚病もかなりの割合で回復すること
E
臭気が発生しないこと
これ等の利点があげられる。反面、肥育の放牧と比べて、面積的は狭くなるので、雨降りの際など糞尿が外に漏れ出す危険性が多い。
日本では、特に雨が多い地域では、屋根を運動場に設ける必要がある。雨の日の管理や移動には手がかかるが、その他は、餌、水、敷き料の補給が主な仕事となる。
ハッチ内は、乾燥しやすく散水等でホコリを抑えないと、逆に呼吸器病の発生誘引となる
などの問題がある。
また、移動した後の跡地は、かなり高濃度の糞尿が残るので深目に土地を耕し、3ヶ月ほど ねかしてから種蒔きをする必要がある。
本格的に、生産サイクルの中に離乳段階での放牧を取り入れる経営は、まだ少ないが、
病畜、発育不良豚の隔離施設として離乳子豚用のハッチを使う例が増えている。
この飼養方法でのメリットは、感染豚、発症豚を簡単に隔離できること、自然の治癒力が
期待できること、少しの土地があれば、すぐにでもできること。
ただし、これらの効果を持続するためには、かならず、1回毎に移動させる必要がある。
また、この野外放牧による、豚の観察をとうし、これまでの舎飼の管理で抜けていた部分が解り舎飼の管理に反映させることが出来る。
日本では、休耕地が増加している。また、消費者の生産過程に対する関心も高くなってきている。このような中で、施設中心に自然と隔離されてきた舎飼に対し、目に見える形での土地利用型の放牧養豚拡大の可能性は大きいと考える。
特に、土地の確保ができれば、投資額も少なくてすみ、耕種農業とのリサイクルの輪を造りやすい放牧養豚は、時代の波に乗りつつあると考える。
離乳子豚の放牧―その背景と可能性
規模の大小を問わず、離乳子豚の事故の増加が、問題となってきている。
病名としては、PRRS、浮腫、連鎖球菌症など近年現われた、各種のウイルス、あるいは、これまで病気と無縁と思われてきた、常在菌の異常な増殖等による被害の報告が多い。
また、事故には、ならないものの、これらの病気に一度感染すると、かなりの割合で、成育不良豚=ヒネ豚、クズ豚がでるので、これが、経済的ダメージをさらに大きくし、現場のやる気 を減退させている面がある。
ワーストデジーズ WASTE DISEASE という言葉も最近では、表れ始めている。
これらの 病気は、ワクチン、薬剤、馴致等での対処方法が、いわれ始めているが これという決定版は、なく 現場では、あまりに多くのワクチンを「予防的」に打たざるえないためもあり、ワクチン疲れがささやかれるくらいである。
採血による診断では、「有効とされる」ワクチンの数は、増える一方で、しかしながら、打っても、ワクチン抗体が上がらなかったり、抗体があがっても、発症が続き、結局 打っても 打たなくても 結果は同じ=事故率は変わらない との 意見も現場では多く聞く。
このような、状況に対する 打開策として、今 放牧養豚に熱い視線がそそがれはじめている。
1.イギリスでの野外放牧
イギリスでは、子豚生産を目的とした、野外での放牧形式の養豚が、30年ほど前から盛んに行われ、その ノウハウ も蓄積されてきている。
野外放牧は、施設ではなく、土地に重きを置いた生産で、通常 1回の生産サイクルが終わると、豚が飼養された土地は、作物生産或いは、牧草地にされ 連続飼養されることはない。
つまり、毎回 新築した豚舎で豚を飼えるようになっている。
また、施設面での制約がないので、土地と必要にあわせ 生産単位を 柔軟に変えることが可能となった。これは、生産面の基本である オールイン オールアウトを 土地の選択という面で実現できるものであり、繁殖と子豚以降の分離生産を、土地の取得、或いは賃貸ということで空間的に行えるようになった。
もちろん、立地、気象条件など各種制約は、あるが、消費者の支持もあり、この生産方式は、確実に根付いてきており、イギリス国内で生産される、子豚の20〜30%がこの野外放牧方式で生産されている。
古いデーターでは、あるが、経営面でも舎飼に十分太刀打ちできている(表1)。
2.我々は、適温帯を固定的に考えすぎてこなかったか
野外放牧 で育てられた子豚は、気候の変動にたいしても、自律して対処でき、なによりもその、健康度合いが、舎飼のものより高いことで評価されている。
したがって、子豚として肥育業者に売られる際も より良い 取引条件で売買されている。
衛生費の項目をみれば、一目瞭然で 舎飼の約半分で野外放牧の場合はすますことができている。我々が、離乳子豚の環境を考える時いつも考えなければならないのは、いわいる、適温帯のことである(表2)。
この、温度は、まず、体感温度であり、この温度は、豚にとっては、たとえば、十分な乾いたワラの中にもぐれば、プラス 5℃上がるものであり、子豚同士が重なり合えば、さらに2〜3℃温度が上がる。つまり、自然のブルーダー、ヒーターなどの人工的な暖房がない状態でも、直接的に体感温度を下げる風を調整してやれば、(囲う) 子豚は、自力で適温帯に近づく努力をするものである。
しかし、我々は、この適温度帯を 室内の温度を制御するサーモスタットの設定値と思い込んでこなかったか?特に 離乳子豚には、舎内温度が必要との認識から最もウィンドレス化が進んでいるのが、この部分である。
ウィンドレス化すれば、まず、必要となるのは、面積をなるべく、少なくし、建設コスト
を低下させ、さらに全面スノコ化は、不可欠の要素となる。
この結果、子豚は、必要なとき以外は、歩かなくなり、ほぼ、同じ温度環境の中で育つ結果、ちょっとした、変化に過分に反応するようになる。
昔から、子豚生産者が良い離乳舎を作ると 「子豚が売れなくなる」といわれてきた。これは、肥育舎が一般に開放式なので、温度変化が激しく、この環境に一定の温度環境で育った子豚が追いつけなくなることから、体調を崩すことが原因とされた。
豚は、温度変化には、非常に弱い生き物である。特に、脂肪が未発達の子豚には、低温は大敵である。しかし、自ら、暖かい場所、冷たい場所を選択できれば、また、暖かい場所が、明らかに認識できる形で用意されていれば、子豚は、本能的に環境を選択でするようになるのである。
もちろん、便所と寝場所は、厳密に分けられる。これにより、糞尿から発生するガスに妨げられることもなく、寝場所では、落ち着いた環境で豚は、休息できるのである。
この、環境の選択には、旧来の必要面積の2倍増しほどのもので、十分対応できるのである。同じ面積でも、歩ける範囲が広がれば、行動形態も変わってくる。
離乳子豚の大群飼育(1群20頭以上)を行うと、排糞場所は、全体の14%程度の面積になるといわれている。つまり、自由に動ければ、それに比例して生活空間は、分けられ、
糞、尿から発生する ガスや感染菌、ウィルス等の攻撃からすすんで、身を守ることができるようになる。このように、考えると、むしろ環境の変化に柔軟に適応できるようにしてやることが、良い飼養管理の基本である。施設的には、離乳子豚が寝る場所では、なるべく、下限臨界温度(LCT)を切る事が無いよう 体感温度を高める、床、壁の工夫
(ワラ、オガ粉、断熱材、入排気の制限)が大切である。
密飼は、ストレスのもとであり、大いに歩かせることで、ストレスは、軽減され、さらに環境を選択できるよう、暖かい場所と排糞場所を準備すれば、豚は、自力で自分に一番あった温度帯を選択するのである。
3.離乳子豚の野外放牧
イギリスでは、ガイドラインという形で21日令以下の離乳を行うことは、禁じられている。したがって、野外で飼われる離乳子豚の日令は、21日以上で、24〜28日令位で
野外離乳施設に移される。
前述したように、イギリスでは、繁殖、分娩も野外で行われるので、この 仔豚たちは、ほとんど抵抗なく野外でかわれるが、日本の場合は、舎飼なので、いきなり、環境の違う野外に移すのは、ストレスが強いので分娩舎のケージで2〜3日飼ってから、移すのが基本となっている。
収容するのは、野外飼育用に開発されたハッチで、床は無いが、本体は、40mm厚のスチレンボードで断熱され、餌箱は、ハッチ内にセットされるが給水器は、それに併設される運動場に設けられる。
ハッチの寸法は、幅、2.4m 長さ4.8mで、これに 同等の長さの運動場がつく、運動場は、2.4m幅の高さ90cmで、60cmまでは、ボードで覆われている。はめ込み式なので、運動場の寸法は、拡大 縮小は自在にできる。
2.4m×4.8mのハッチには、最大で70日令 30kgまで収容したとして 40頭の離乳豚を飼養できる。
ハッチ内はワラ、オガ粉などで、床の保温と断熱を確保する。
4.野外離乳ハッチの使い方
日本では、まだ野外飼育には、抵抗が多い。これに対する回答としては、まず、ヒネ豚を収容する病畜収容先として使われることが多い。
これら病畜は、かなりの確立で回復力に向かう。
通常の離乳舎と同様に使う際には、収容する豚の日令差を14日以内にして、1群を編成するようにする。
ワクチン、治療は、通常はしない。ハッチ内の乾燥は、維持する。特に設置する土地の水はけは、良いほうが良い
野外飼育すると
1 食欲は、1.5倍
2 好奇心旺盛
3 敏捷な動作
4 どちらかというと骨太の筋肉質
これらのように、変わってくる。
つまり、野外環境下で「元気」をもらい 健康を回復するのである。
5.歩くことが、免疫力を高める
病気を治すのではなく、豚を直す。 薬、ワクチンではなく、基礎体力作りをというのは、人間の健康管理でも一つの目標となっている。
その健康法として、推奨されているのが、「歩くこと」である。人間でも、リハビリには、とにかく、歩かせることが基本となっている。
豚も、大いに歩かせ、その中で、環境変化に対応するすべを、学ぶことで、大いなる抗病性を獲得できないか。こらが、今回の健康ハッチ開発導入への 動機となった。
この考えは、すでに 千葉、鹿児島、熊本、宮城などで、採用され、「消費者に見せられる養豚」という考えにもあてはまり支持を広げつつある。
簡単なものであるが、奥は深く、日本での飼養のためのノウハウは特に雨対策でまだまだ、検討が必要というのが現状である。
しかしながら、これからの農村風景の中にイギリスと同様、日本でも野外で日の光を浴びて飼養される豚が見られるようになることをこの産業の発展のあり方として望まずにはいられない。
表1 イギリス 食肉生産委員会(MLC)
養豚年次報告1995年 離乳豚生産者の放牧と舎飼の成績比較
項目
|
野外放牧の子豚生産
|
舎飼の子豚生産
|
調査農場数
|
13
|
29
|
販売
|
|
|
年間1母豚当たり子豚販売数
|
20.8
|
20.8
|
生体販売平均KG
|
27.1
|
31.7
|
生体1kg当たり販売単価(ペンス)
|
106.7
|
97.8
|
費用(£ ポンド年間母豚1頭)
|
|
|
母豚えさ代
|
234.3
|
197.21
|
子豚えさ代
|
164.47
|
199.93
|
衛生費
|
11.12
|
20.84
|
輸送費
|
1.08
|
1.57
|
光熱費
|
0.67
|
19.32
|
水道費
|
7.81
|
7.07
|
敷き料費(ワラ、オガクズ)
|
7.18
|
7.07
|
その他の費用
|
3.17
|
6.34
|
労務費
|
58.06
|
91.2
|
固定費(減価償却など)
|
64.16
|
66.61
|
表2
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暑いと豚は、熱源から、
離れます。
|
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イギリスでは、野外での、放牧養豚が盛んに行われています。
消費者もこれを、支持し、ています。
|
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豚舎内で感染して、発症している豚を集め、まず、健康豚から隔離する。
|
|
自然の治癒、また
豚の回復力には、眼をみはるものがありる。
日の光は、スス病にも効果を及ぼす。
|
|
離乳子豚は、巧みに環境を選択し、また 歩き回り健康になっていきます。
|
|
野外に並べられた
離乳子豚用のハッチ。
農地の再利用という面で農業の新しい形態を模索できる。
|