明治大学生田キャンパスに根づく「ブタソバツルクサ」 発見

種の伝播はここにもあった!!



 明治大学はあまり知られてはいないが、6大学のなかでは東京大学とともに、農学部を内部にもつ伝統校です。農学部でも、畜産はなく、農学科の中の動物生産学の科目があり、養豚関係では、統計から生産性を解析する「ベンチマーキング」で有名な纐纈(コウケツ)雄三先生が、教鞭をとられているのが特筆されます。

 私は、もう一度基礎から勉強したいと考え、今年4月から明治大学農学部の聴講生として30数年ぶりに、大学のキャンパスに足を踏み入れることができました。

 何よりも良かったのは、膨大な農業 畜産関係の本を集めた図書館を自由に使えるようになったことです。年中無休で8:30から夜10時まで(土、日、祝日は17:00)開いていて、環境は抜群です。また、提携している他の大学図書館も利用できます。

 講義も昔と違い、パワーポイントを使った画像中心の眼に訴える形でのテンポの早い具体的な内容です。今は、繁殖生理の山にかかっているところですが、改めて豚の体内でどのようなホルモンが流れ、それによる生理反応でいかに発情、授精、着床、成長が始まるか、現場での思いと重ね合わせ勉学にいそしんでいます。

 学んでいる生田のキャンパスは、都心から離れ、神奈川県川崎市といっても、緑の多い内陸部の丘陵地帯にあります。小田急線の生田駅から歩いて10分ほどの丘の上にキャンパスはありますが、校舎にたどり着くまで50段ほどの階段を登らなくてはなりません。

 階段を登りきるとテニスコートがあり、その反対側にフェンスでは囲まれていますが、野菜果樹などを植えつけられる畑地ができています。きっちり計画的に作られているというよりは、小学校の時に学校の隅に良く作られていた学級菜園のような雰囲気の圃場がみられます。

 フェンススと圃場までは雑草が生え、日当たりがあまりよくないところにはドクダミが繁茂していました。そして、やや日当たりが良くなった、フェンスに沿って、たくましく育っている「ブタソバツルクサ」を見つけたのです。最初は、ほんの数株と思っていましたが、眼を凝らすと、結構群生しているではありませんか。それも、明らかに計画的に植えられたのではなく、フェンスと圃場の猫の額ほどの狭い地べたに、他の雑草と競合する形で、根付いているではありませんか。

 「ブタソバツルクサ」は、豚が喜んで食べる「牧草」として、40〜50年も前に熊本の畜産試験場で普及が始まったときいています。さらにルーツを調べると中国雲南省がその原産地らしく、葉には、苦味が有り漢方薬としても流通しているとききます。しかし、とにかくこれを豚に給与すると配合飼料には見向きもしない豚もブタソバツルクサは争って食べ合うという不思議な牧草です。

 大分県で農場を開設していた時、熊本のコンサル先の農場からこのブタソバツルクサを分けてもらい、農場で栽培したところ、大いに育てることが出来ました。これをネットで紹介したところ、全国から、種、あるいは、牧草そのものを分けてほしいという依頼が殺到し、茨城、長野、福島などで栽培が始まってきました。

 しかし、まさか明治大学の生田キャンパスにこのブタソバツルクサが繁茂しているとは、思いもよらなかったです。さらに目を凝らすと、キャンパスの緑地のなかにも、数株ですが、自生しているブタソバツルクサを見つけられました。

 もちろん、これらのブタソバツルクサは、私が送ったものではありません。おそらく、数十年前養豚と何らかのつながりがある人が、どこからか持ち帰り、計画的にか、実験的にか定かではありませんが、定植を試みたのではないかと思います。

 しかし、今見る限りでは、栽培されてきたというよりは、雑草との競合の中でたくましく育ち豚の口に入ることもなく柔らかい緑で、キャンパスの明るい雰囲気を陰で支えているのかもしれません。

 麦、果物、花などの、大陸を超えての栽培の伝播には、何千年もかかり、人々に移動と共に少しずつ、その良さが認められたものだけが、取捨選択され伝わったと聞き及んでいます。そんな目から見たら、ブタソバツルクサの九州からの伝播は、きわめて、速い部類に属するかもしれません。

 しかし、それを見つけた時私は、心から感動し、ブタソバツルクサを持ってきた人の養豚にかける思いに暖かいものを感じるのでした。




▲フェンスのそばで、他の雑草と競合しながら、必死に伸びようと頑張るば「ブタソバツルクサ」の株





▲よい位置に繁茂を続ける「ブタソバツルクサ」の群落。左側は電気の配電盤。
「ブタソバツルクサ」は、栄養分の少ない、小石砂の混じったような、水はけのよい土地によく根づく力の強い牧草である。





▲キャンパスの緑地に一株だけ繁茂していた「ブタソバツルクサ」。
4月に芽吹き、梅雨前に大きく成長、10月に白い花を咲かせ、11月にソバの実を結実し、冬には枯れる。
生薬として、胃腸の調子が悪い時など、噛み砕き飲むと意外とすっきりする。